2015年12月13日日曜日

その481 Talk about Odin 


おいおい、オーディン、おまえ、ホントはスゴいらしいな。

世界中プレゼント配って回るなんて、スゴいじゃないか。見直したぜ!


え?ああ。いやチガうぞ。

それはわしじゃなくて、わしの名の由来になった、あの大神オーディンのことだよ。

あの、片目の、帽子をかぶった、神槍グングニルを携え、スレイプニールにまたがった、あのオーディン。つまりヴォータンのことだよ。


あー、なーんだ。なるほどねー。でもおまえ、なんでオーディンなんて大袈裟な名になったの?

あ、そりゃわしが、水曜日生まれだからな。

まじで!?おれと同じだな!おれは木曜日生まれだから雷神トールの名をもらったのさ!


そりゃ奇遇だなあ。ところでトールよ、トナカイって、、、あれはどこから来たんだろうな?

鴉は、フギンとムニンだとして、オーディンって、、、トナカイなんて飼ってたか?飼ってたのは、狼だろ?確かゲリとフレキって言ったっけ?


うーん、トナカイねえ。あ、もしかして、あれじゃないか??





あの、冬の(?)夜に、夜空に(?)みえるという、幻影の狩人たち、すなわち、、、

ああ!Wild Huntか!!

そうそう。

確かになあ。エモノの群れを追って天空を翔る、オーディンとその配下の狩人たちかあ。

な?トナカイの後ろにサンタクロース。追ってるわけじゃないけど、絵的にはほぼ同じじゃないか?

なるほどねえ。
ま、Wild Huntの首領は、時にオーディンと言われもするし、ゴートのテオドリックだとか、ウェールズのアーサーだとか、デーンのヴァルデマーだとか、いろんなやつの場合があるみたいだけどな。


うわっ!ロキじいさん!いつも突然だなあ。年の瀬もやっぱり、エール飲み続けてんだな…。


ウイー、ヒックヒック。。




さて。わたしたちは普段、サンタクロースといえばフィンランド、というイメージを持っています(いると思います)が、このように、実際には現在のサンタクロースはアメリカで形成されたイメージで、20世紀に有名な曲「Santa Claus is coming to town」によって普及したと考えられます。一説によれば、赤と白の衣装をまとった姿は、某清涼飲料水メーカーのキャンペーンの結果だとか。

しかしその原型はネーデルラントのシンタクラース伝説にありました。そう、サンタクロース伝説が産まれたニューヨークは、かつてニューアムステルダムと呼ばれた、ネーデルラント系移民が建設した街だったのです。そしてそのシンタクラースは、こっそり贈った金貨で娘3人を救った聖ニコラオスになぞらえられてはいますが、実際には、教化以前のペイガニズムの時代から存在した、大神オーディンに関する民間信仰がさらなる原型ではないかと考えられます。

オーディンと、その使い魔としての鴉-フギンとムニン-の伝承は、典型的なヒーローとトリックスターの構造を成していますし、恩寵と懲罰との二択を迫る説話は、蘇民将来の伝説とも同系の、普遍的な寓話の一形態でもあります。

フィンランドのイメージを強めているのは、トナカイのひくソリに乗ってやってくる姿ですが、サンタとトナカイの関係は、やはりアメリカ大陸で、19世紀に形成されたようです。オーディンがまたがった神馬スレイプニールが、シンタクラースの愛馬アメリゴになり、そしてそれがトナカイになったとされますが、、、

急にトナカイが複数頭になっていることや、それまでは騎乗していたのに突然ソリをひくようになっていることなど、意匠面での変化があるのは否めません。そんなことを調べていた時にみつけたのが、別の民間伝承、"Wild Hunt"です。これはニッポンにおける"狐の嫁入り"のような印象を受ける伝承で、狩人たちは妖精だといわれたりいやいや霊魂だといわれたり、みたものにシをもたらすなど、どちらかというと冥府信仰のにおいただよう、すなわちハロウィン的なニュアンスを感じます。

"Wild Hunt"の原型は、何でしょうか?"狐の嫁入り"がお天気雨という自然現象から来たように、天空に観察されたこの現象も、気象現象でしょうか?ひとつ考えられるのは、オーロラです。ただ、ドイツやネーデルラント、それにブリテン島では本来オーロラは観測されません。ですから、中世以来長年に渡って観測された"Wild Hunt"は、オーロラそのものではなく、雲であったり、ダイヤモンドダストであったりしたかもしれません。ただ、もっとも古い"Wild Hunt"は、ゲルマン語系言語の話者たちが、最も北、すなわちスカンディナヴィアのラップランド南辺まで北上した際に遭遇したオーロラを長年にわたって語り継いだものかもしれません。

そして、アメリカ大陸におけるトナカイもまた。

新大陸の極地近辺で、オーロラを観測した移民たち。そして、その地にいた、スカンディナヴィアと同じ大きな角をした鹿、すなわちトナカイ/カリブー。これをみた人々が、先祖伝来の伝承である"Wild Hunt"をその空想の中に描き、ただしこの時は、シを呼ぶフキツな行軍としてではなく、寒い冬に贈り物を届ける心優しいおじいさんの説話を産み出した。そこには、寒い冬に南下し、南方の部族とのあいだで交易をおこなう極地の民族についての噂話が、一役買っている…と考えると、再び話は、トナカイとともに北からやってくる袋を抱えたおじいさんの姿に、戻るのでしょう。