2015年1月10日土曜日

その297 

まずこちら、シロイワヤギ

「Collecta 88367 シロイワヤギ ビリー」

以前にも一度登場しました^^

この方は、パっとみヤギなわけですし、和名もヤギ、英名でもmountain goatと呼ばれていますが、、実はヤギとはちょっと違った仲間。分類上は、・・・ヤギ亜科-ヤギ亜族-シロイワヤギ属に属しています。

一方ヤギは、前回の最後に出たように、・・・ヤギ亜科-ヤギ亜族-ヤギ属。

つまり、ヒツジ属、ヤギ属、バーバリーシープ属、シロイワヤギ属は、ヤギ亜族の中でそれぞれ独立した属。

すなわち、ヒツジがヤギでない程度には、バーバリーシープはシープ(ヒツジ)ではなく、そして同じ程度にシロイワヤギもヤギではないのです^_^;



ちなみにヤギ属はタール属バーラル属と近縁で、バーバリーシープ属はアラビアタール属シャモア属と近縁、そしてシロイワヤギ属はターキン属と近縁。この3つのチームとヒツジ属をあわせた4つのチーム、計9属が、ヤギ亜科-ヤギ亜族を形成しています。系統図で書くとこんな感じ。ややこしや~

ターキン@多摩動物園

さらにこのシロイワヤギ、見た目や生態が似ていることからシロカモシカという呼び名もあるそうですが、、、カモシカはといえば、・・・ヤギ亜科-ジャコウウシ亜族に属するカモシカ属でありまして、なんと、ヒツジ、ヤギ、バーバリーシープ、シロイワヤギたちとは亜族レベルで!すでに違ったグループなのです。

つか、ジャコウウシ亜族って…。

「Schleich 14332 ジャコウウシ」


はい、このジャコウウシ亜族は、ヤギ亜族、チルー亜族と共にヤギ亜科を形成する3つの亜族のうちの1つ。カモシカ属のほか、ゴーラル属ジャコウウシ属を含む亜族です。


ジャコウウシ Musk Ox。Scheleich絶版品の秀作にして、北極圏ネイチャー番組のヒーローのひとつ、ですね。そういえばカモシカってどこのメーカーも出してないですかねえ?

カモシカ属 Capricornis は、生息地域(アジア東部の低緯度地方から高緯度地方までと島嶼部)が近い/重なっており形態もかなり似ていることなどから、かつてはゴーラル属 Nemorhaedusだとされてきたのですが、現在はニホンカモシカ Capricornis crispus やタイワンカモシカ Capricornis swinhoei など計6種が別の属を立ててもらっています。

カモシカ。氈鹿。アオジシ。アオ。英語ではserow。SEROWといえば林道も走れるYAMAHAのオートバイ^^ うーん、近いのはこれかな?

ニホンカモシカ
@San Diego Zoo

はい、ここらで一度ヤギ亜科ヤギ属-ヤギ亜族に戻ります。


こちらは人気のマーコール

「Collecta 88641 マーコール」

ヤギ亜科 Caprinae
 ヤギ族 Caprini
  ヤギ亜族 Caprina
   ヤギ属 Capra
     マーコール Capra falconeri

そう。マーコールは正真正銘、ヤギ。

ヤギ属にはほかに、ヤギの原型のパサンニシコーカサスツールヒガシコーカサスツール、そしてアイベックスが所属。アルプスに棲むアイベックスはプレモの山岳シリーズに登場していましたね。


・・・ところで・・・いろいろと調べてみてわかったのは、伝統的な分類の頃につけられた和名や英名が、最新の説による分類の中ではややこしくなってしまっているということですね。属の変更がなされて学名は変更されても、和名英名などの通称は変わらないことが多いので。アラビアタールはタール属ではない、とか^_^; なおかつ、ターキン、タール、バーラル、ゴーラル、チルー、などなど、生息地各地の言語での名が和名化・英名化されていたりすると、どれがどれやらさっぱりということに(T_T) 人類にとってなじみの深いヤギ亜科だからなのか、どれもこれもシンプルで似た名前だし…。

一方、亜種名に棲息地名が付いていることで楽しめる面もありました(^_^) たとえば・・・

ヒツジ属を形成するのはヒツジ、ムフロンのほか、アルガリビッグホーンがいますが、最大種であるアルガリ Ovis ammon は、北ユーラシア全域に生息しており、亜種名の和名を列挙すれば、アルタイアルガリ、モンゴルアルガリ、ヒマラヤアルガリ、カシュガルアルガリ、アラタウアルガリ、テンシャンアルガリ、カラタウアルガリ、パミールアルガリ、ジュンガルアルガリ、と、中央アジア好きには見ているだけでニヤニヤしてくる地名の大行列!


また、ビッグホーンは北米西部に棲んでいますがこれまた、カリフォルニアビッグホーン、ロッキービッグホーン、メキシコビッグホーン等。生息域は、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州、アイダホ州、コロラド州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、ネヴァダ州、カナダのブリティッシュコロンビア州、アルバータ州などなど。


geneには懐かしい地名が並びます。この写真はカナダの路上にて。


アルバータ州からブリティッシュコロンビア州に向かう路だったと思いますが、どちらかな?確かアルバータ州内だったような。。それによってロッキービッグホーン Ovis canadensis canadensis なのかカリフォルニアビッグホーン Ovis canadensis californiana なのかが異なるようです!ちょっと驚きです。


さらに驚きなのはこちら、シベリアビッグホーン Ovis nivicola。通称snow sheep。ビッグホーンにかなり近縁ですがイチオウ別種とされています。東シベリアからカムチャツカ半島まで、一部シベリアの内陸部にも棲息。ということはこれ、ビッグホーンとシベリアビッグホーンって、デネ・エニセイ語族 Dené-Yeniseian Language の分布とほぼ重なるんじゃ!?という妄想まで^_^;

とにかく、人類も、ビッグホーン一族も、どちらもベーリング海峡を越えて新大陸へと渡ったのでしょう。西回りではなく、東へヒガシヘと。




で、ここらからまた、ヤギ亜科を離れます…

それは、綿羊、山羊に続く第三の「羊」、羚羊です。

羚羊 レイヨウ とは?

和語でカモシカのことを羚羊と呼ぶ表現もありますが、より知られているレイヨウと言えば皆さん、インパラとか、オリックスとか、アンテロープとかをイメージされるのではないでしょうか。そう、レイヨウとは、分類学的には、ウシ科からヤギ亜科と(ウシ亜科のうち)ウシ族とを除いた多くの種の通俗的な総称で、ウシ科130種のうち90種がレイヨウにあたるそうですが、分類的には様々な亜科のものが混在しており、「レイヨウ」というくくりは動物学的・分類学的にはあまり意味がないようです。つまり、キリンでもなく、シカでもなく、ウシでもなく、ヤギでもない、ツノと蹄のある動物の多くが、レイヨウにあたるというわけです。

ヤギ亜科でレイヨウと呼ばれている動物はいないようですが、ウシ亜科インパラ亜科、かなりフクザツなブラックバック亜科など、ヤギ亜科以外のすべてのウシ科の分類群に、通称「レイヨウ」と呼ばれる種があるようです。

例えば…


「Collecta 88689 マウンテンニアラ」

2014年の新作。

角の湾曲もそうですが、胴の白斑が美しく、かつこのモデルは体型、姿勢、眼などがとても美しく造られている優れもの。

この模様からなんとなくアジアっぽさを感じた人もいるかもしれませんが、なんと、マウンテンニアラはアフリカの種だとか。

そしてこちらは、ウシ科 Bovidae - ウシ亜科 Bovinae に所属。ウシ亜科 - ネジレツノレイヨウ族 - ブッシュバック属 - マウンテンニアラ。

…ネ、ネジレツノレイヨウ?捩れ角羚羊?

とにかく、兎に角、ヤギ亜科ではなくてウシ亜科なのです。

で、ウシ亜科ですけどウシ族ではなくネジレツノレイヨウ族なのです。


同じくウシ亜科 - ネジレツノレイヨウ族に所属するもうひとつの"属"がこちら、イランド属

「Collecta 88563 ジャイアントイランド」

確かこれも2014年新作。同じく角、体型、姿勢、眼、いずれも素晴らしい出来栄え。

Schleichの2011年廃盤品にある「クーズー」とも、また"世界四大珍獣"(なぜ…)こと「ボンゴ」とも似ているこの方。しかしクーズーやボンゴがニアラと同じブッシュバック属であるのに対して、イランド属という独立の属です。ジャイアントイランドイランドの二種でイランド属です。

でもみんな、アフリカの羚羊ですね。

クーズーはジンバブエの国章になっています。


で、そのジンバブエがまだローデシアと呼ばれていたあまり評判のよろしくない某時代には、クーズーではなくってセーブルアンテロープが描かれていたそうです。

黒貂の名を冠した羚羊。

「Collecta 88564 セーブルアンテロープ(牡)」
「Collecta 88578 セーブルアンテロープ(牝)」

ウシ科 Bovidae
 ブルーバック亜科 Hippotraginae
  ブルーバック族 Hippotragini
    ブルーバック属 Hippotragus
     セーブルアンテロープ Hippotragus niger


 

こちらは近縁のアラビアオリックス

ウシ科 Bovidae
 ブルーバック亜科 Hippotraginae
  ブルーバック族 Hippotragini
    オリックス属 Oryx
     アラビアオリックス Oryx leucorycx

「Safari 284829 アラビアオリックス」

つまりこちらもウシであり、ブルーバックです。


一方、ヌーはといえば…

ウシ科 Bovidae
 ブルーバック亜科 Hippotraginae
  ハーテビースト族 Alcelaphini
    ヌー属 Connochaetes
     オジロヌー Connochaetes gnou

「Collecta 88542 オジロヌー」

geneのヌー観(笑)を変えてくれた一頭。

動物番組などでよくみかけるのはむしろオグロヌー。英名 Blue Wildebeest。ロバっぽい感じ。

より馬っぽい感じのオジロヌーは、英語ではBlack Wildebeest。うーん、ややこしや(笑)

なお、ハーテビースト Hartebeest、ヌー Wildebeestの英名が、なぜ"beast"ではなくて"beest"なのかと言えばこれ、英語起源ではなくてオランダ語起源なのです。

これらの獣が記載された当時、かの地はオランダ系の"入植者"、いわゆるボーア人が闊歩していました。ローデシアとか現在の南アフリカとかがそれ。で、そのボーア人が話していた、オランダ語ベースのアフリカ方言をアフリカーンス Africaans (en/ja) と言います。ゲルマン語族の中の、西ゲルマン語、低地ゲルマン語に属する、まあ要するにオランダ語の変型です。現在では、南アフリカ共和国のほか、ナミビア、ボツワナ、レソト、スワジランド、ザンビア、ジンバブエなど南部アフリカ諸国でヨーロッパ系の人々を中心に話されています。

このAfricaansで、獣 beast のことを、beestといいます。

ウシ科-ヤギ亜科の族・属・種の多くが北アフリカからユーラシアそして北米で進化を遂げたのに対して、ウシ亜科-ネジレツノレイヨウ族と、ブルーバック亜科-ブルーバック族、ハーテビースト族は主にサブサハラアフリカで進化を遂げました。

すなわち、

  • ウシ科-ウシ亜科-ネジレツノレイヨウ族のブッシュバック属とイランド属
  • ウシ科-ブルーバック亜科-ブルーバック族のブルーバック属やオリックス属
  • ウシ科-ブルーバック亜科-ハーテビースト族-ヌー属ほか

などアフリカの「羊」がいわゆる「レイヨウ」(の主なもの)なのでした。


最後に語源話をもうひとつ。

ブルーバック属の属名 Hippotragus や、バーバリーシープ属の属名 Ammotragus に使われている tragus という語は、現代の英語では、外耳の一部分、ちょうど耳の付け根のところ、前側にある、ちいさな硬いでっぱりを指す言葉として解剖学やピアスの世界で使われますが、もともとはギリシア語で「ヤギ」を意味する言葉でした。ヤギのアゴヒゲに似ているということで、もみあげ部分の髪や鬚を指す言葉となり、その部分に近い耳の一部を指す語に変化しました。

Hippoは馬、Ammoはアンモナイトと同じく、エジプト神話の神アモン Amun を指すギリシア語です。アメン=ラーとも呼ばれるアメン神はヒツジのような角を持った神で、ずっと後に「ゴエティア」の悪魔アモン Aamon の源流となったとも言われています。すなわち Hippotragus とは「馬のようなヤギ」、Ammotragusとは、「アメン神の角を持ったヤギ」「悪魔アモンの角を持ったヤギ」という意味。キリスト教世界で悪魔の象徴として描かれるのは、もしかしてバーバリーシープ??いえいえ、あくまで学名は近代になってつけられたものなので。ただしアメンの角は、場所柄、ヤギ属ではなくバーバリーシープ属のものだった可能性はあるかもしれませんね。



お!2月演目番宣!
同じくギリシア神話絡みで言えば、魔神テュポーンにおびえて海へと逃げる最中、慌てたあまり下半身だけ魚に変化してしまったヤギ頭の神、牧神パーンが有名です。この半山羊半魚の怪物は、星座の世界にも登場し、ヤギ座/Capricornus となっています。黄道12星座の山羊座/Capricorn といえば有名ですよね。1月、まさにいまが山羊座の時期。

このCapricornus、Capricorn という語は、ラテン語で"ツノのあるヤギ"あるいは"ヤギのツノ"を意味する言葉から来ています。capri は、ヤギ亜科 Caprinae、ヤギ族 Caprini、ヤギ亜属 Caprina、ヤギ属 Capra に使われているように、ずばりヤギを意味します。corn は、トウモロコシや赤いコーンを思い出してもらえばわかるように、ツノを意味します。hornと同じですね。これが結びつくと、ツノのあるヤギ、すなわち雄山羊を指すわけですが、、、なぜかジャコウウシ亜族-カモシカ属 Capricornis の名に使われています。。星座の山羊座/Capricorn に一番近い名前を持っているのがヤギ属ではなくってカモシカ属だというのはちょっと驚きでした。

なお、この半山羊半魚の神については、さらにさらにさかのぼれ、源流としては山羊と魚で象徴されていたシュメールの神エンキ Enki があると考えられるそうです。エンキはローマ神話においてはカプリコルヌスという神と習合し、また牧神パーンとも習合しました。

牧神パーン。ギリシアではパーン、ローマではフォーン Faun。音楽と女の子をこよなく愛する牧場の神。旧き良きペイガニズムの残滓。この、奔放で快楽主義的な側面から、中世キリスト教の時代にはじょじょに悪魔視されることとなり、こちらこそが、サバトの悪魔の描写として山羊の頭の魔神が描かれるようになった所以だとも考えられています。このことから、近代においては山羊頭のパーンは、ネオペイガニズムの象徴とされることもあるそうです。

アメン=ラーのエジプト、エンキのシュメールすなわちメソポタミア、パーンのギリシア、フォーンのローマ。ペルシア湾岸から地中海世界は、北で進化したヤギ亜科たちの中心地のひとつだったようですね。



はい、以上!

長々となりました、「羊」の年の、綿羊、山羊、羚羊特集。

ウシ科の、ヤギ亜科とウシ亜科をまたいだ、チーム・ツノのパレード。

Collecta、Scheleich、Safariの大集合でした!!