その188
「わしの名は…」「わしの名は…」
「「3834 空飛ぶ絨毯」じゃ」
「え…?おっさんが絨毯なのか?」
「…。いいや。じゃがまさにそこよ。わし、"空飛ぶ絨毯と魔法使い"って呼んでほしいんじゃが、どうもそう呼ばれんのよ。」
「え?おっさん、魔法使いなのか?」
「…。いや、それがそうでもないんじゃ。」
「なんなんだよ!」
老人「わしか。わしはな、大航海士シンドバッド、とかつて呼ばれた男じゃよ。」
若者「え?」
トリ「え?あれ?シンドバッドはおにいさん、あなたの名では?」
老人「何?若いの、君もシンドバッドというのか?」
若者「お、おう。お、おれが付けた名だ…。モンクあるか!昔、幼いころ聞いた、七海商会の創業社長シンドバッドの話に憧れて、おれがじぶんで付けたんだ!」
老人「ほほお。それはありがたいな。わしが、そのシンドバッドじゃ。」
若者「ホントかー?そりゃ感動だーーー!」
老人「いまはもう後進に道を譲って会長職。こうしてきままに、絨毯で旅をする身じゃがな。」
トリ「Chairman, Founderってやつですね。」
老人「そうそう、英語は単純じゃな。会社を創業しても、王朝を創始しても、どっちもFounderじゃな。わしゃあんな野蛮な王たちとは違うんじゃが…。ブツブツ…。
それより若いの、ノドは乾いてないか?ちょっとこれでも飲まんか。そしてその代わり、わしのためにこれを読んでみてくれんか。どうもアラビア語はニガテでな。」
トリ「シンドバッドおじいさん、アラビアの人ではないの?絨毯だからペルシアの人なの?」
老人「そうそう、わしはペルシアの、もうほとんどインド寄りの方の出じゃよ。シンドバッドというのはそもそも、"インドの風"とか"インドの河"とかいう意味でな。かっこええじゃろ?
昔わしが駆け出しの商売人だったころに、商売仲間がそう呼んで、いつのまにかそういうことになったのよ。ペルシア語は多少は読めるんじゃが、アラビア語はどうも…。昔はデキのいい部長どもや秘書が読んでくれてたから良かったんじゃが、一人旅をはじめてからこれがフベンでいかん。これならあのアヤシイ男から、何でも喋れるという指輪のほうをもらっておけばよかったのお。なにせケモノとも喋れるというからな。ブツブツブツ…。」
若者「おっさん!…じゃなかったシンドバッド社長!いや会長!じまんじゃないがおれは文字は読めん!アラビア文字も、ペルシア文字も、何にも読めん!ガクはないのが取り柄だ!」
老人「…それは取り柄とは言わんじゃろ...まあよい。わしも同じじゃな。」
トリ「その紙は何なんですか?それにその飲み物は?(ランプかと思ってたよ。。。)」
老人「うむ。これはな、あっちのザンジバルのほうで、何やら気のいい若者にもらったのだよ。なんでも、暗黒大陸で最近出回っとるらしいわ。飲むとハイになるらしくてな。そいつがだんだん広まって、大陸の東のほうではけっこうな人気らしいんじゃ。わしも飲んでみたが、ホントウに気分がよくなるぞ。
何やら豆のようなものを挽いて粉にして湯で入れるんじゃが、この紙にはその豆の秘密、採れる場所やら製法やらいろいろ書いているらしいんじゃ。わしはどうにもこいつにハマってしまってのお。毎度毎度ザンジバルまでもらいに行くわけにもいかんで、なんとか育ててみたいんじゃが…。」
トリ「…なんかヘンな薬じゃないんでしょうね。」
若者「う、うめえ!
これはうめえ!」
老人「あ、コラ。読めもせんのに飲むだけ飲むとは…。てきとうなやつめ。」
若者「おっさん!いや、会長!これはうめえし、儲かるにおいがするぜ!なんだか頭も冴えてきた。うおーーーー、モウレツに成功のにおいがするぜ。こいつは量産しかねえ!
しかしおっさんシンドバッドも、このオレ様シンドバッドも読めないと来たら…。読めるやつを探しにいくしかないよな。な?」
トリ「え?わたし?いや、絨毯があるんじゃ…。」
老人「うーむ。若者の行動力はいつみても楽しくなるのお。よし、絨毯に乗れ。トリも疲れておるようじゃ。しかしトリよ、誰も載せずともよいからちとついて来ぬか。おぬしにも気になるところがあってのお。」
若者「よーし、それじゃあ出発だ!」
(今回オチのないまま明日夕刻につづく)